VOL.1 人材ポリシーをつくろう~人的資本経営の起点~
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人材ポリシーをもつことの意義
人材のもつ能力を最大限に引き出し、組織としてのシナジーを高めることが、企業価値向上に繋がる。これは今まさに経営が問われている、人的資本経営における考え方です。このことはある程度理解が進んでいることと思われますが、ただ実行においては、「何から手をつけたら良いか」「取り組んでいるが実際はなかなかうまくいかない」等というのが実情だと思います。
つまり、人にはそれぞれ培ってきた環境や経験、そこから得た一定の価値観、さらには個人的な感情もあり、それらが微妙に絡み合いながらも物事が進捗していき、結果として必ずしも最善の成果や価値に繋がらない、ということもあるのではと考えます。
これをいかに最小限に留めるのか。今更ではありますが一番効果的で持続性のある方法は、やはりベクトルを合わせるということではないでしょうか。企業の理念や目指す組織風土に適った集団を地道に作り上げるということです。抽象的で定性的ではありますが、組織内にその素養を持った人材を一人一人増やしていくことでしょう
では何から手をつけましょうか。
ひとつは入り口で選別する採用力の強化です。経営学者のジム・コリンズは「偉大な企業への飛躍を導いた指導者は、まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、次にどこに向かうべきかを決めている」(出典「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」ジム・コリンズ著)とそれまでの調査研究から唱えています。この考え方は、確実な取り組みであると感じます。更に言及しているのは、バスに乗せる人は、仮に企業目標が変化してもそれに柔軟に対応できるであろう人を乗せることとしており、乗せる段階での選別が重要なポイントであるとしています。そのためには、適切な面接等のスクリーニングを通して、自社の組織風土に適応する人材を採用することが大切となってきます。
一方で、入り口でうまくスクリーニングできたとして、次に既存の人材はどうでしょうか。折角良い人材と思って採用しても、実は素養のない人材であった、或いは既に紛れていて出来ればバスから降ろしたい等ということがあります。そしてそこに手を打つ必要があります。実はここに人材ポリシーが効果的であると考えています。
人材ポリシーとは、組織と人材の関係性、つまり、組織における人材との関わり方の大方針であります。このポリシーは、人事施策や運用上の判断における一貫性や持続的に人材のクオリティを担保することに繋がると考えます。
昨今、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンという言葉が大分浸透していると思います。個の多様性を重視して、それを受け入れる、ということが一層求められています。一方で組織においては、多様性は認めるものの、甘えることなく、それに見合った役割や成果を求めていくべきでもあります。多様性を受容しつつ、組織と人材の関係性は対等であると明示している企業が多くみられます。つまり個々の人材はその環境を享受しつつも、言わば職業人として成果も求められていることを人材ポリシーとして共有しているのです。その発想がないと、多様な働き方だけを獲得して成果が追い付かない人材が出た時の対応にばらつきが出やすいと考えられます。
個々の多様性は鑑みるも、人材ポリシーといった基本原則をおき、役割や成果に応じたなんらかの境界線みたいなものを敷いておくことが必要と考えます。そして境界線に立った人材は、自身の状態を気づくなり、わきまえる等して、遅かれ早かれ自らバスを降りることに繋がるでしょう。これは事実としてありえます。
人材ポリシーを持つことは、一貫性を担保してそれを実行に移すためのベースとなります。ポリシーを単なるお飾りではなく、行動として実行するための拠り所として浸透させることが必要と考えます。例えば日常的なコミュニケーションにおいて、人材ポリシーを持ち出して、相互に感化し合う環境をつくることはひとつの方法論であるとも考えます。急がば回れの発想です。 -
人材ポリシーの例をみる
各社HPで公開している人材ポリシーと思しき企業の例をいくつかご紹介します。
まずは、ファーストリテイリングから。
「全社員が、夢・希望・志を持ち、一人一人の自己実現と会社のビジョンの実現が最高レベルで両立する組織を目指しています。我々の理念や価値観に共感いただき、努力する方には最高の教育とコミュニケーションの場を提供し、経営者へと育てていきます。」とあります。
自己実現と会社ビジョンの実現の両立を目指されています。高い組織目標をおくと同時に、人材にも同じレベルを求めていると感じます。次に武田薬品工業です
「従業員を重視」としています。さらに「私たちは、すべての従業員を、タケダがグローバル製薬企業として展開する多様なミッションを成功へと導くために欠かすことのできない存在であると考えます。共に未来を創り、未来を変えていくために信頼と敬意をもって、誰もが能力を最大限に発揮できる職場環境の提供を約束します。」とあります。
最高の職場環境を提供して、ミッションの成功を目指されています。これも同様に高いレベルの目標を掲げていると同時に、役割を果たすべく個々の能力発揮が期待されています。そしてソフトバンクです。
こちらは短文でシンプルです。・「勝ち続ける組織」の実現
・「挑戦する人」にチャンスを
・「成果」に正しく報いる とあります。勝ち続けることやチャレンジを求めています。常に成長が念頭にあると思います。そこに貢献する人には報酬も相応にするとしています。成果や能力差が報酬に繋がることを明確にされています。
さて、この3社の共通点はなんでしょうか。組織と人材は対等の関係性であるという前提をおいていることかなと推察します。従来からの「使用者」と「労働者」という上下関係からは脱却して、並列関係、いわばパートナーとしての関係性を築こうとしているのだと考えられます。それゆえに切磋琢磨、信賞必罰といった発想が垣間見えます。 -
人材ポリシーは人的資本経営の起点
あらためて、人的資本経営はどこから手を付けたら良いでしょうか。もちろん様々であるのですが、私は、この「人材ポリシー」をつくる事から始めたら良いと思っています。企業理念と同様にこの「人材ポリシー」を人材戦略や人事施策等の拠り所とすることで、自社の人材との関りにおいて、公正で一貫性をもたらすことに繋がると考えるからです。
一度社内で議論してみてはいかがでしょうか。