1.人事ポリシーとは?
端的に言いますと、「社員との向き合い方」です。経営者が社員という存在をどうみるのかまたはどう扱うかの姿勢を言葉にしたものです。
ある本にこんな話が書いてありました。アメリカのある中堅企業の社長のことです。人種も国籍も価値観も多様な組織で常にある心配事があるそうです。それは「翌朝社員がいつもどおり出勤してくれるだろうか。。。」ということだというのです。そして毎朝会社の入口で待ち構えていて、ひとりひとりの顔をみながら「今日も来てくれてありがとう」と心の中でつぶやくそうです。
これを読んだとき、私は「そこまで心配するのか!」と思いました。でもすぐさま「もし一人も会社に来なければどうなるのか・・・。」と思うと、その社長の気持ちが理解できました。
一方で「社員を雇ってやっている」と思う経営者には想像もつかないことでは、とも思いました。当たり前の日常に危機感を抱かない経営者は、社員とどう向き合うのかをあらためて自答することが大事だと思います。
人権を尊重し人として敬愛する姿勢が人事ポリシーには必要です。
例えば仕事上の立場から強い指示や命令を下すこともあるでしょう。また日常の行動や成果に対して叱ることもあるでしょう。そして降格や退職勧奨、時には解雇という判断を下すときもあるでしょう。
社員に対して厳しく対峙する場面は幾度となく遭遇し、その場その時の状況に応じて適切に対処しなければなりません。
そしてそのような局面においては会社として或いは人事として一貫した判断基準が必要です。共通の裏付けが必要だと思うのです。これはベースの考え方です。それが人事ポリシーのひとつの役割なのです。
ひとりの人間として、どう向き合うのか明確なポリシーがあると、その判断は一貫性を保ち、組織への納得感と帰属意識を高めることに繋がります。
2.人口減少を乗り越えるには
ご存知の通り日本は少子化による長期の人口減少過程に入っています。2030年には人口1億2,000万人を下回り、その後も減少を続け、2055年には1億人を割って9,744万人となると推計されています。
また出生数の減少は、生産年齢人口(15歳から65歳)にまで影響を及ぼし、2030年までには7,000万人を割り、2055年までには5,028万人となると推計されています。(参照)令和3年版高齢社会白書(全体版) (cao.go.jp)
余談ですが労働力確保という視点からも早晩70歳までの雇用義務化は避けられないでしょう。
ただ今後の見通しとして、生産年齢人口の減少において、企業の維持成長を望むなら、人事面からすると、繰り返しになりますが今一度最も重要な経営資源である社員との向き合いが適切であるか、立ち止まることが必要ではと思います。
人材獲得による採用競争はより激化が想定されます。採用勝ち組と負け組が一層明確に分かれると思料します。インターネットの採用関連情報には、実在の社員の口コミが掲載されています。少なくとも候補者は面接前には目にするでしょう。情報の信ぴょう性はあるにせよ、まったくのデマであれば削除されているはずです。基本的な企業体質、言い換えると社員との向き合う姿勢がネガティブに書かれないような体制にしておきたいところです。
併せて企業の存在価値も見つめ直す必要があると思います。少なくとも利益至上主義の考え方があれば一考することです。
もちろん利益は株主還元、研究開発投資、社会貢献そして内部留保も必要です。一方で社員への投資も積極的に行って欲しいと思っています。これは労働分配率の見直しによる総額人件費の増額やその配分方法を見直しまた福利厚生等の施策も含めたトータルリワードとして還元することを意味します。
人を大切にする姿勢を打ち出すこと。これが企業活動の持続性に繋がると考えます。
3.変化したカリスマ
カリスマ経営者日本電産の永守重信氏のコメントに目を惹かれました。コロナ禍における日経新聞(2021.5.4)のインタビューです。(記事抜粋)
「どんなに経済が落ち込んでもリーマンの際は『会社のために働こう』と言い続けた。だが今回は自分と家族を守り、それから会社だと。」
「50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきた。だが今回、それは間違っていた。テレワークも信用してなかった。収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。そのために50くらい変えるべき項目を考えた。反省する時間をもらっていると思い、日本の経営者も自身の手法を考えてほしい」
これは真の経営者の言葉だなと感じました。恐らく優良企業と言われる経営者は同様のことをすでに実践しているし、今回のパンデミックで一層強く感じたことだと思います。
「災い転じて福となす。」
この機に多様な働き方を取り入れる企業も増えています。併せて人という資源が何よりも大切にされ優先され実践されているようにも見えます。
ただ中途半端にならないことです。気をつけたいのは、その向き合いの度合いが日常の言動に無意識に反映し、良くも悪くも社員に確実に感じ取られるということです。
「言うは易く行うは難し」です。
4.人事ポリシーを定めよう
「やってみなはれ」や「人のやらないことをやる」はよく知られた価値観です。
チャレンジしなさい。でも失敗は咎めない。との思いが伝わり、人事ポリシーに通じます。
こんな短い言葉ですが、奮い立たせるには十分なメッセージであり、経営者の社員へのスタンスが伺えます。
人事ポリシーには特別な言葉はいりません。会社らしさを伝える言葉や語り継がれる逸話(エピソード)があればそれもヒントです。