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2021.09.06

人件費管理のポイント ~戦略的な発想で~

1.人件費管理のポイント

 人件費管理のポイントは2つあります。

 まずは大枠で、総額人件費をどのくらいに設定するかです。売上高比率や労働分配率等、企業ごとに基準はあると思います。

 つまり収益の配分において人件費をどう設定するのかですが、もちろんこれは経営そのものであり人事部門のみのことではありません。コンセンサスを得ながら適正となる基準を追及することかと思います。

 そしてもう一つはその総額人件費をどう配分するかです。例えば直接払いとなる給与や賞与等です。固定給と変動給の割合。特に昇給率や賞与原資の考え方は慎重に運用する必要があります。また、より投資的な意味の強い配分となる、教育費や採用費にどのくらい充てるのかも含みます。

 いずれも短期~中長期的な視点での投資ですので、経営陣や各部門とのコンセンサスをとりながら決定することが望ましいと思います。

 特に直接払いは社員のモチベーションにダイレクトに反映しますので、その仕組み作りと実際の運用は一貫性かつ公平性が担保されるべきもので、慎重に行うべきものとなります。

 

2.賃金水準

 次にどのくらい給与や賞与を支給すればいいのか決める必要があります。或いはどのくらいが妥当なのかです。

 この「賃金水準」は経営者の経営ポリシーを垣間見る指標であります。本来は高すぎることなく、低すぎることもなく、適当な水準が望ましいです。そういう意味では、本来賃金水準の決定はポジション毎における能力や経験値等において市場価値(市場価格)が介入され、それが企業の賃金水準と近似値であることが、妥当と言えるのかもしれません。

 ただ実態は企業内のルールに則った配分がなされているのが大勢ですのでそれを前提に述べていきたいと思います。

 まず賃金水準の決定要素のひとつ目は、企業の収益構造であります。ここに左右されるわけです。収益構造は業界ごとに違いますし、業界内でも企業規模や実績、ブランド力、そして生産性等からくる収益構造は企業ごとに大いに異なっています。端的に言いますと高い収益を出す企業は給与が高いのは当然のこととなります。もっと言いますと大企業であれ中堅企業であれ、給与水準等生涯年収はどの企業に入るかによって大きく左右されることとなります。 

 2番目に「世間相場」が賃金決定のひとつのベンチマークになります。これは採用活動においては意識しなければなりませんし、社員のロイヤリティや離職防止においても、そこそこ適切な賃金水準を維持しなければなりません。業界のそして競合となりそうな、或いは業界枠を超えた同程度の企業との比較においてどの程度の水準を目指すのかということです。

 私が以前いた企業では組合との交渉において会社側は、業界枠を超えた同規模の企業100社を選定して、その中において第3四部位を目指す、つまり上位25%以内の給与水準を維持または目指すと公言していました。

 細かな情報の提示はありませんでしたが、経営のポリシーとしては明確なメッセージであり、社員も理解を示していたことを覚えています。つまり現在値なり目標値を示すことによりモチベーションを維持していこうとのことです。これはマネジメント上においてとても良い情報開示と思っています。

 3つめに「最低賃金」も一つのベンチマークになっています。アルバイト等の短時間労働者や有期雇用契約の方については、一つの基準値であります。飲食などアルバイトが多い企業はかなりこれに左右されることとなります。現状は日本の他の先進国と比較して低賃金であるとの認識にあります。今後も最低賃金は上昇していくと思われますので、関連する企業はこれを含んだ収益構造の見直し等が必要となるでしょう。

 そして4つ目に経営者のポリシーです。経営における利益をどう配分するかということにも繋がります。利益はステークスホルダーに配分されますが、利益至上主義はあまり感心できません。一定程度の内部留保も必要でしょうが、研究開発への投資や環境活動等の社会的貢献への投資も必要です。でも最も重要な人材投資としての人件費はより積極的な位置づけとして投資をして頂きたいと思います。

 余談ですが、中堅や大企業或いは上場企業等は一定程度の賃金を確保されていると思います。問題は、中小企業、特にファミリー企業は、労使の待遇がアンバランスであるところが多いのではないでしょうか。経営者のアドバンテージはある程度は必要ですが、どうみてもかけ離れている企業はあると推察します。それではやはりいい人材は集まらないし、成長も望めません。いや望んでいないのだとさえ思います。ここに日本企業の生産性の低さから脱却できない課題の一端があると思っています。こういう企業では利益を削ってでも総額人件費を増額することを、よくよく検討されるべきと思います。この場合に人事として踏み込むことは難しいことかもしれませんが、戦略人事としては、優秀人材の確保と維持成長を望むにおいて是非経営にチャレンジして踏み込んで欲しいと思います。

 

3.人件費は投資

 私はすべての人件費においては投資という発想で管理するべきと思います。一般的には人件費は費用(コスト)であろうと思います。そして一般管理費における人件費の割合は当然高く利益にも直結するため、なるべく最小限にコントロールしたいと考えます。ただこれは利益至上主義の延長であると考えています。

 一ステークスホルダーである社員へもなるべく手厚くすることで、モチベーションアップが図られ、将来の経営に対する貢献に繋がる。そう考えれば投資との見方は素直に受け入れられるでしょう。

 一方で一旦高くすると下げられないとの発想も根強くあります。ただこれはコントロール可能な仕組みを導入すれば良いのです。日本の企業で賃下げはできないとの神話があります。私の知る限りでは次のような話がまことしやかに語られています。

 それは、労働基準法における就業規則の絶対的記載事項における賃金関係について「昇給に関する事項」とだけが記載されているということです。このことから降給については、できないものと解釈されているとのことです。更に年功序列や職能資格制度等が相まってその神話が現在まで浸透しています。もちろん正当な理由がなく賃金を切り下げるのは不利益変更となり違法行為となります。しかし正当なルールがあってそれに則って行えば基本的に何ら問題はありません。

 これまでの職能資格制度では能力は錆びることなく落ちないことから常に賃金は年齢と共に上がってきましたが、例えばICT化の今は一部の能力は逆転現象がおきています。

 従いまして、一度上げた固定給を下げることができる仕組みに変更して、メリハリのあるそれこそアウトプットに対する公正な配分を実現することで、モチベーションを上げることができると考えます。

 

4.売上見込が先か人材確保が先か

 例えば売上を伸ばしたい或いは成長が見込まれる場合には対応するための要員確保が必要です。その要員がフル稼働するのは当期中なのか、或いは来期での稼働を見込むので今期は準備期間であるとか、いずれにしても当該要員の確保は先手が求められます。特に中途採用であれば、それなりに選考期間が必要であるし、良い候補者がいるか否か転職市場における採用活動のタイミングも要員確保に影響してきます。

 営業サイドからは売上未達の要因として「人事が採用できていないから」と言い訳によく使われます。確かに短期の要員確保が見込めない場合にはそうかもしれません。ただ余程即戦力の確保ができないとフル稼働は見込めず売上貢献までには相応の時間が必要と認識するべきです。

 こういったことからも、人件費は投資として捉えておくべきと思っています。

 

5.まとめ

 直接的賃金の形はモチベーションに大きく影響します。ただ単に多ければいいというものでもありません。また理屈もなくなんとなく支給されるのもいただけません。業界内での位置付け、投資としての人件費の扱い、そして個々に配分されるルールの在り方等、人事制度において工夫をこらし、最適な基準を、戦略人事として追い求めるべきです。

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